現地の変化を見逃さずに寄り添う ーベトナムの学校建設プロジェクト(会報34号巻頭記事)ー

ベトナム北部イェンバイ省の学校(本校)

ベトナムの学校建設プロジェクト、現地事情の変化とAEFAの動き、そしてこれから


私たちは、わずか数カ月の間に世界が大きく変わるのを目の当たりにしました。この分断の時代に、私たちAEFAスタッフの胸にあるのは「私たちは私たちのできることで世界をつないでいく。」という強い思いです。

アジアの少数民族を対象としたAEFAの学校建設や教育支援プロジェクトには、教育の機会にまで分断があってはならない、すべての子どもたちのために未来の選択肢を広げたい、という願いがあります。

より広い世界を知る。情報に踊らされず真実を見極める目を育てる。違う視点から物事を見る想像力を身につける。教育を通じてこれらの知識や自分で考える力を得た子どもたちは、互いの理解と思いやりによって手をつなぎあう明日へと道を拓いていくのではないでしょうか。私たちはAEFAの活動にこれまで以上に大きな意義を感じています。

一方、コロナウィルス感染症拡大防止を目的とした各種規制によって、私たちの活動の一部は制限されています。AEFAのプロジェクト自体には大きな影響がないものの、AEFAスタッフによる現地視察などは実施できない状態が続いています。

このような状況において現地のニーズに適切に応える支援を企画・実施するために、現地NGOの報告やニュース媒体を通じて情報収集を行い、現地事情に詳しい方々からも助けをいただいて、支援地域の最新状況を把握し、そこにある変化や課題を読み取る努力を続けています。

ベトナム北部イェンバイ省の学校(分校・旧校舎)
ベトナム北部イェンバイ省の学校の旧校舎 ー ブルーシートを壁に貼って

支援地域においてはさまざまな変化が起きています。ベトナムでは、同国の政府方針の転換を機に支援ニーズが大きく変わりつつあります。

AEFAは山岳少数民族のための分校建設を数多く手がけてきており、粗末で老朽化した校舎や不衛生な環境の改善が主な支援内容でした。2019年にAEFAはベトナムのイェンバイ省を訪れ、河川、峡谷を挟んだ急こう配の山岳地に散在する少数民族の居住地域を視察しています。そこで私たちが目にしたのは、トタンと板で建築された簡素な小学校分校の校舎、激しく老朽化した教室、古くて不衛生なトイレ。飲料水も得られない、教室もトイレも数が足りず一部の子どもたちは遠方の別の分校に通わざるを得ない、そんな教育環境でした。AEFAはこのイェンバイ省の山岳地を支援強化地域と定め、強化企画の第一号として小学校分校に教室、教員室、井戸、トイレを新設するプロジェクトを立ち上げたのです。

支援者からの内諾も得ていよいよスタートしようという矢先に、地域の行政(人民委員会)が候補校である分校を本校に統合する方針を出したことが判明しました。同地域の教育訓練省は分校存続を主張する一方、人民委員会は本校への統合を強く主張し、結果的に候補校の本校への統合が決定、そのAEFAプロジェクトはキャンセルとなってしまいました。

僻地を中心に分校を建設することで初等教育の就学率を向上させてきたベトナム政府。

AEFAはこの分校整備の方針のもとで多くの分校を支援してきました。しかし、その方針が転換期を迎えたようです。インターネットで得られる情報から、現在ベトナムでは公的機関の再編成を進めており、教育分野では分校がターゲットになっているということがわかってきました。ベトナム首相が分校の統廃合を推し進めるべきと発言していることもあり、さらにその動きが強まっていると思われます。イェンバイの分校統合を成功モデルとして他省にも展開する方針のようです。

分校を本校に統合することは、本校に設備投資を集中することによって教育の質の改善を図るという目的もあるようですが、一方で多くの懸念もあります。これまで分校に通っていた子どもたちは、遠方の本校に通うか、または寄宿生活を送ることになります。本校がそこまで整備されるのか。長くなる通学路の安全は確保できるのか。さらに、学校が遠くなったり寮に入らざるを得なくなったりすると、子どもたちが休暇後に学校に戻らなくなってしまうのではないか。

整備前の寄宿舎の食堂

近年の支援要求内容から、これらが単なる懸念ではなく実際の課題である可能性が伺われます。たとえば学校の教室ではなくキッチンと食堂の建設の要求です。ベトナムの小学校では午前と午後の授業の間に長い昼休みがあり、生徒たちは午前の授業が終わると帰宅し、昼食を食べて再び午後の授業のために登校します。学校と自宅の距離が離れていて昼食のために帰宅できない生徒が増えたため、給食が必要になり、キッチンと食堂を建設したいという要望が出てきたのです。AEFAの従来の支援規模を超える教室数の校舎や、寄宿舎、食堂、キッチンを備える学校建設の要望もあります。この傾向はイェンバイにとどまらず、トゥエンクアン省などでも顕在化しています。

整備後の寄宿舎

ベトナムですべての分校が統廃合されるわけではありません。AEFAは今後も存続する分校の建設や修繕の支援を続けます。同時に、これまでのAEFAモデルとは異なるタイプの支援要求にも目を向け、その背景や重要性を探ることが重要だと考えています。

キャンセルとなったイェンバイの分校建設プロジェクトについては、代わりに、少数民族の住む地域の小学校の本校に分校を統合するための教室増設プロジェクトを支援者に再提案し、受け入れていただきました。分校を建設するのではなく本校に統合するという、当初のプランとは逆方向のプロジェクトを進めることに、AEFAとして戸惑いがなかったわけではありませんが、本校の教室不足を解消することはそこに通うことになる少数民族の子どもたちの教育環境を確保することにつながります。変化する現地のニーズに寄り添う最適な方法、AEFAとしてできるベストな形を模索をしながらの活動が続いています。

レインボーライブラリー 民族について学ぶ活動の時間

変化に対応することだけが私たちの活動方針ではありません。目指しているのは、AEFAのプロジェクトをきっかけに現地において変化が生まれ、それが現地の推進力となること。これまでにもご紹介してきたレインボーライブラリー(図書館)プロジェクトがその好例です。2019年にベトナムのたった1校で始まったこのプロジェクトは、その後、現地の多くの学校から熱心な支援依頼を受けるプロジェクトとなりました。2020年以降、図書館建設や読書習慣啓蒙活動が実施された学校は19校にもおよび、現在も新たな図書館が建設中です。

世界の小さな一角における変化がひとすじの流れとなり、いくつもの流れが合流して、きらめく大河となっていく。私たちが思い描くのはそんな希望の形です。同じアジアの仲間として心と心をつなぎ、共に未来に向かうために。変化を見過ごさず、また、より良い変化を作っていくAEFAの取り組みは続きます。